わびさびつくひび。

ことば、おと、しょく、たびなど。

ムーア風の法則。

羽田へ向かう飛行機の中。いつものように機内誌を読んでいると、吉岡里帆さんが出ているDICの広告写真が目に入った。そこは同社の川村記念美術館で、写っているオブジェは、ヘンリー・ムーアの彫刻だった。というか、そのとき初めてその彫刻家の名前を知った。

 

羽田で乗り継ぎ、高松へ向かう飛行機の中。すでに機内誌を読み終えたので、いつものようにスマホで映画をみる。ウディ・アレン監督・脚本・出演のタロットカード殺人事件(2006年)。大富豪役のヒュー・ジャックマンの自宅に招待されたジャーナリズムを学ぶ女子大生役のスカーレット・ヨハンソンが、部屋にある小さな彫刻に目を止めるシーン。ヒューはヘンリー・ムーアのものだと教える。この瞬間、僕は「はいはい、ムーア家のヘンリーさんのね」、とうなずくのだ。

 

僕は初めて知った言葉や情報をすぐに使いたくなるたちだ。使うと忘れにくくなる気がするし、知らなかったという事実に悔しさがにじみ出るせいか、そうしてしまうのかもしれない。こういうのを経験則的に僕は「ムーア風の法則」と呼ぶことにした。いくつになっても、知らないことを知るうれしさで興奮していたいなと思う。

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ロンドンを舞台にしたタロットカード殺人事件(原題はScoop)は、最初から最後までニヤっとするシーンばかりだけれど、特に好きなシーンをふたつほど。

 

マジシャンのウディが、スカーレットの誕生日にパンしかないレストランに誘い一緒に食事をするシーン。彼女は20ポンド(9kg)太るから、と食べるのを拒むが、ウディは、「僕は心配性でいつもドキドキしているから、エアロビやってるみたいに太らない」と返す。これ、自虐ネタを混じえたウディ流の優しさの表現だ。僕が太りにくい体質なのは、いつも妄想してる気質からきてるのかも。

 

ウディとスカーレットは、新聞記者の幽霊から聞いた連続殺人事件の犯人情報をもとに、探偵気取りでスクープを狙う。ウディが殺された娼婦の住んでいたマンションで聞き込みを行うも、あんた誰?と住人から聞かれ、とっさに、「大統領の陰謀をスクープしたワシントンポストの小さいほうのすご腕の記者だ」、と答える。とうぜん、「なぜアメリカ人の記者がこんなとこで、取材してるんだ」と聞き返される。これもナンセンスなんだけど、皮肉が入っていてクスッとくる。

 

ウディの作品は、やっぱり彼自身が出ているのが好きだな。もうおじいちゃんもおじいちゃんだけど、元気にまだまだ続けてほしい。